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教えるということ

学生さんが見た漆の山の記憶

 

ウルシの山も終わりを迎える時期にインターンシップ希望の学生を1名受け入れた。

希望というのは「漆掻きを体験したい」ということで、

美大3年生、進路の大事な時期に「漆掻きを体験したい」とは穏やかではない。

漆掻きをすることで一体何の恩恵がこれから光輝くであろう彼女の人生にあるのだろうか?

連絡をもらった後も私は考え込んだ。

他の仕事をインターンシップで選択すればいいのに、何故漆掻き。

もっと将来に役立つ職業を選ぶのが筋だろう、何故漆掻き。

また女性で、何故漆掻き。

職業上の性差別はしないつもりだししたくもないが、

経験上どうしても女性には不利な職業なのは間違いない。

でも彼女が「漆掻き」を体験したいと思ったのだから、

何かしらその気持ちを彼女が大事にしたいと考えての希望なのだろう。

何年か前に、やはりインターンシップ希望の女学生を受け入れたことがあったけど、

まさかまた希望者がいるなんて考えてもいなかったのだった。

だから受け入れることにした。

漆掻きという特殊な仕事を体験したいという学生が人世にもう一人いたこと、

そしてその一人がよりにもよって偏屈な私を頼って連絡してきてくれたことに、

こちらも応えない理由はなかった。

 

短い期間だったが、片道約1000劼鮗屬覗破して岩手県北まできた学生さんはやはり熱心だった。以前受け入れた学生さんもやはり熱心が度を過ぎるほど熱心な方だったが、

今回も根性が座った方だった。

「できれば漆にかぶれてみたい」と話すほどの肝が据わった人。

男ではない女性だ、なかなか言える台詞じゃない。

「真冬の北海道の積雪の中を裸足で駆け回りたいんです、「希望、しもやけになりたい」」

というほど勘違いだらけの危険なこと。

とりもなおさず狂気の領域だ。

狂気と熱心なことは紙一重かな、、

 

幸いにもかぶれるというほどのかぶれもなく、インターンシップは無事に終えることができたのだがどうしても最初の疑問が気になったので学生さんに聞いてみた、

何で漆掻きを希望したのかを。

彼女は淀みなく答えてくれた、

「授業で漆にふれていても、漆としての実感が持てなっかたんです。この漆はどこでとれて

どこを通って、私のもとまで来ているのか。知識としての漆掻きは知っていたし、

その方々が漆を採っているのも頭では分かっていたけれど、でも釈然としない、

食卓に上る切り身のお魚は知っているけど、海で泳いでいるお魚は切り身じゃないですよね?でも切り身の魚を魚だと思ってしまったら、本来魚であるはずの海の魚はなんなのだろう。そんな感覚が嫌で、それで来たかったんです。」

だから「かぶれてみたい」のだなとすっと腑に落ちた。

そしてインターンシップに何故漆掻きを希望したのかという疑問の氷塊も同時に溶けてしまった。

純粋な気持ちや思いはそれだけでより純度の高い水を探し求める、

そして見つけ出してしまうのだろう本能的に、

記憶の底に閉じられた遠い昔に忘れてしまった水底の記憶。

 

私の愚問にしっかりと答えてくれた学生さんの疑問に、

少しでも解答の手助けができたのなら、

漆掻きという職業もまるっきり意味のないことでもないな。

薄汚れ厭世した私の身体と気分にも少しだけ未来の風がそっと吹き寄せてきた、

そんな錯覚を覚えた。

 

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2019年3月13日(水)–5月13日(月)
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2018年5月12日(土)–13日(日)
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