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街の中の玉こんにゃく

玉こんにゃくは食のダイヤモンドである           *写真はイメージです。

           

 

年越しは妻の実家がある山形県で過ごした。

高校を出て以来20年、年越しを実家で過ごしたことがなかった身にしては、

妻の実家ではあるが久しぶりの所謂「年末年始」を経験することになったわけだ。

突然だが、結婚をするとか、恋人と同棲するとかパートナーと一緒に生活するということは、自己の世界の中の飛行場に、異なった生活基盤を通過してきた「異邦人」をいかにうまく着陸させていくか、お互いのパイロット実技試験だと思う。

うまく着陸できることもあれば些細なことで空中爆破することもあるだろうし、

片足着陸でなんとか飛行場に着きはしたがあえなく大破することもあるだろう。

試験飛行も成しに無事に着陸できるかは運が大きく左右することだし、

訓練を繰り返したからと言って安心して着陸できるほど安易でもないし保証もない。

着陸の成功は時代の空気にも影響されるが、実際時代感に影響されない物事など

この世には一つも無いのだということが目の前に迫ってくる。

その時代感は誰が作っているのか、やはり人間なのである。それもほんの一握りの稀に出現する選ばれた人間達。

ではわたしたち大多数の人間は何者を演じなければならないのだろうか。

考え出すと少々怖い。

 

玉こんにゃくで有名な山形県、勿論妻の大好物の一つ。

玉こんにゃくに恨みはないが、興味も好きでもなかったわたしは、妻の玉こんにゃく好きをしっかりと受け入れ管制塔で誘導しながら今のところ無事着陸に成功しているように

見える。

その玉こんにゃくだが、山形県民で食したことがないという人間がいるだろうか。

日本全国に「食」を売りにした場所はあると思うが、

密かに山形県こそ、そのなかでも抜きんでた食の王都の地方都市代表だと思っている。

玉こんにゃくもそんな王の都がお薦めする珠玉の食べ物の一つ。

県民の方々はそれぞれに玉こんにゃく哲学を持っていて、

各々好みの性癖というか食癖がある。

その食癖にかなわない玉こんにゃくは、味哲学という名の銃に装填された弾丸で撃ち抜かれ断罪される罰が待つ。

ざっと挙げても、味が中まで染みていない、こんにゃくが小さい、辛子の付け方が悪い、出汁が悪い、熱々じゃないなどなど。

年末や新年ともなればいたるところで玉こんにゃくたちが山形県民の生活に侵入してくる。

山寺の参道は言わずもがな、道の駅の売店、産直の店先で、大型ショッピングモールの店内で、温泉のカウンター横にも存在感を発揮する。

あの独特の醤油とするめの合わさっただし汁の匂いが、お参りや運転または買い物するもの、湯を浴びるもの達の上にも燦々と降り注いでくるのが年末年始の山形なのだ。

その匂いでこの時期の山形県を透明なドーム状の中に地域ごとまったく包み込み、県外の地域から隔絶するのだった。

妻の実家の正月は漆重箱のおせち。

中にはやはり王の中の王或いは姫君「玉こんにゃく」が、その銀色に輝く丸い御体躯を、重箱の中で優雅に遊ばされていらっしゃる。

玉こんにゃくを箸で摘もうとするが、姫は不遜の輩を気に入らないご様子で、

つるつるころころ、水光りする身体を自由奔放に動かす。

腰を左右に激しく揺らし、その腰が抱かれようとする一瞬にするっと両の箸から絨毯で敷き詰められた漆重箱の玉座へと舞い戻る。

的を絞らせない。

わたしは意を決しゆっくりと箸先を玉こんにゃくの頭上に落とし込む。

観念した玉こんにゃくの中心に箸が突き刺ささり、軟らかいゼリーの上にビー玉を落としたような形に歪んだ先から透明な出し汁があふれ出す。

それでも気を抜くと、玉こんにゃくは腕に渾身の力を振り絞って箸先から逃れようともがきだす。慎重に恐る恐る箸を口に持っていきつつ同時に上顎と下顎を大きく開いて口内に玉こんにゃくをいれると口を閉じた。

玉こんにゃくの弾力を口中に感じながら二度三度咀嚼し王都は陥落した。

 

「少量食べるぶんには玉こんにゃくも美味しいよね。あはは。」

 

タマコン哲学が完成した瞬間だった。

 

Viva玉こんにゃく。

 

 

 

*皆様、新年明けましておめでとうございます。

今年も拙ブログをよろしくお願い致します。

一体どのような方々がこのブログを読んでくださっているのか、果たして読んでくださる方がいるのかすら覚束ないわけですが、

下賤の身であるわたしには頭を上げるすべもありませんのでよく分かりません。

漆のことを全然アップしない駄目なブログではありますが、

更新も滞りがちな駄目なブログではありますが、

摘める砂粒くらいの数であろう慈悲深い読者の皆様が、こんな馬鹿で阿呆な奴が世の中にいるんだと励ましの一助にもなれば、

または時には暗澹たる気分になる方もいらっしゃれば、これほどの喜びはありません。

インスタグラム共々(こちらは妻がアップしているのでご不快な気分にはならないと思います。)

引き続き本年もよろしくお願い致します。

皆様の2017年が素晴らしい1年になりますように。

                                   猪狩

 

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